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不動産屋の加藤さんからの電話で目覚めた。午前中に更新へ行くと言っていたのに寝坊。おはようございます、今起きたので後ほど行きます。と伝え1時間後家を出る。

「カイさんがふらっとここに来てからもう2年経つの。早いなあ。あの時のことはよく覚えているよ」そう言う加藤さんは前よりも和らげな顔になっており、なんというか熊に似ていた。2年前、ふらりと降り立った阿佐ヶ谷でなんとなく、本当になんとなく不動産屋に行き、一番安いお部屋を教えてください。と頼んだ相手が加藤さん。加藤さんは「わかった」と言い車で今住んでいる部屋まで乗せてくれた。その部屋(今の部屋だけど)を特に気に入りもしなかったが、他に選択肢もないので「ここに決めます」と言い、そして本当に住んでしまって今に至る。そして翌日、いざ自分の家へ向かおうとするも家の周辺で2時間くらい迷子になり、気がついたら荻窪にいた。荻窪だということを知ったのは、そこら辺を歩いていた郵便屋さんに「すみませんが、ここはどこでしょうか?」と尋ねると「荻窪だよ」というので、荻窪まで来てしまったらしいということに気がついたのだった。

なんとか部屋にたどり着いたが、今思うと阿佐ヶ谷から家までのルートはほぼ曲がり道がなく、近くはないが迷子になるほど難しくもない。なぜあんなに迷ったのかは今となっては思い出せないが、全然家が見つからないので全ては夢だったんではなかろうかと思うほどだった。

そして迷子になった翌日、不動産屋の加藤さんから電話が入り「あ、もしもしカイさん?いやちょっと昨日夢見たんだけどさ。夢で女の人がひたすらグルグルどこかを歩いて迷子になってたんだよ。もしかしたらカイさん、迷子になってなかった?」というので驚き、「それは私です。迷子になりました」と告げると「やっぱりねえ。道教えるから」と言って、もう一度わかりやすい道を教えてくれたのだった。この人は何者なんだろうと思った。そういうこともあり、加藤さんは私のことをよく覚えてくれていた。そしてこっそり更新料も安くしてくれた。(パイプユニッシュ代とか大変でしょ。と言いながら)そして「恋人はできた?」ときかれ、即答して「いいえ」と答えると、「そうかあ。誰かと住むことになったら出て行っちゃうのかなあと思ってさ」という。「その予定は今の所ないです」というと失笑混じりですこし切ない顔をされ、「とにかく頑張って」というので、わかりました頑張ります、と答えその場を去る。何を頑張るのだろうか。

 

そんなこんなでまた住み続けることになった。2年後の2020年まで。2020年には東京にいたくない。でもこの時自分は何をしているのか見当もつかない。色んなことが見当がつかないけれど歩くしかなく、そうして三宅さんの映画を見に行った。正直なぜ北海道が舞台なのか、これは東京の話にも見えると思ったけれども空気感が良かった。男ふたりが花の匂いを嗅ぎあって笑いあってるシーンを見て、こういうところを撮る三宅さんの感性を好きだなと思った。きっと花が好きなんだろうな。あと生活。なんだか色々が過ぎていったよなあ、と色々振り返ったりもした。

 

振り返り、書きとめたあとではもう前を向くしかなく、とりあえず何が起こるかはわからないけれど後ろを振りむいて歩くよりも思い切り盛大につまづきながら前へ転んで行くという道筋しかないような気がする。(状況が状況なので)今日不動産屋へふらりと行ったときの心持ちをちょっと思い出したのは良いことだった。かろやかにしなやかに自由に動きたいよなと思う。今はとりあえずみずみずしい梨をもくもくと食べている。紀伊国屋に果物の短歌集が置いてあったけど、秋・果物・短歌って良いセレクトだな。