_

 

爆発したような音が鳴り部屋がいやな揺れ方をするので眠れそうになく、さらに船酔いのような気持ち悪さを感じ頭が痛む。なぜいつも台風は夜中に来るのだろう。すでに台風が通過して穏やかな場所もあれば現在まさに暴風域に入っているこの辺り、そうしてこれから台風が来てしまう場所。台風の過去・現在・未来はずいぶんわかりやすい。ニュースに映し出されるデジタルな日本列島を見ると今この辺りは暴風域として赤く表示され、明日はそれが北にずれている。赤は危険なことを示す色なのか。台風以外にも危険なことは毎日起きているので、だったら至るところが赤く表示されていてもおかしくないが、花粉や熱中症の危険度が色に変換されるくらいで他に危険を示す赤が映されることは少なく、だからあまり危険ではないのかもしれない。危険ではないのかもしれない、と思っていると知らない間に怖いサイレンが鳴り、テレビの画面上部に何か怖い出来事が、聞き慣れない音と一緒に突然表示されたりする。やたらと音が鳴るときはすでに何かが手遅れのときで、でも音は今が危険だと必死に鳴り続ける。聞いたことのない甲高い音、サイレンのような音を聞いた時には危険を察知して自己防衛に励むものだと教えこまれたような記憶。あの音を聞くと逆に足がすくんで動けなくなり、皆が慌てて教室を出て行く姿も何だか怖かった。耳が聞こえない人はどうするのだろう。肌で危険を察知するのだろうか。音はただただ怖い。何かの感覚がとてつもなく優れて動物的だったらそれに従って素直に動くことができるのに、誰かを守れたり強くなれそうな気も少しだけするのに、情報しか拠り所がなく、そして機械に頼って動かされていることをとても非力に思う。情報が肥大すればするほど感覚が薄れていく。そのくせ情報が遮断され途切れることが一番怖い。もし何もかもがシャットアウトしたら、自分がいる所をしらせることも出来ず大事な人の居場所も分からず、そしてどうやって食べ物を探したら良いのかも行き先も何も分からない。だから一番弱い生き物だ。一番弱い生き物のくせにその自覚が全然ないところがまた弱い。一生逞ましくなれそうになく、何も知らないまま何かを知っているふりだけをして、ぽっかり終わってしまいそうだ。動物たちはこんなに酷い台風のなかでどこに隠れているのだろうか。

真夜中には狼のことを時々思い浮かべる。見たことはないが憧れのような気持ちが昔からあり、孤独な狼が山の上で遠吠えをする様子を思い浮かべるとなぜか安心し、そうして近寄りたいと思う。今この時(この時間)にそういう狼が存在していたら、と想像するとひとりじゃないような気がし子守唄よりも効力のある安眠剤になった。これは小さい頃からの癖。大抵空想ばかりしている子供だったので現実から離れたものにずいぶん助けられてきたが、まさか25歳になった今でもそれが続いているなんてどうかと思う。子供の頃想像していた〈大人〉というイメージと、年齢だけは大人になってしまった自分が全く違ったものになっている。そもそもどういうイメージを思い浮かべていたのかも忘れたけど、きっと大人は力強いもので泣かないものだと思っていた。でも全然そうじゃなかった。ちゃんと見ていなかったんだなと思う。

台風がすこし収まって鈴虫の音が聞こえる。風がうるさくて聞こえなかったがこんな時でも音を鳴らしていたらしい。小さくて、でも優しい音を鳴らすね。